製品の色が「少し違う」と感じたとき、その判断は人の感覚に頼るだけでは不安定です。色彩の品質管理では、色の違いを感覚ではなく数値で明確に捉える必要があります。そこで用いられるのが「色差(ΔE)」という指標です。
このページでは、色差(ΔE)の基本から、計算方法の違い、使い分けの目安までを具体的に解説します。
目次
色差(ΔE)とは──色の違いを距離で表す考え方 ΔEの値が示す色の違いの目安 発展型の色差指標──CIE94とCIEDE2000 色差の使い分け──目的に応じたΔEの選択実務での色差活用例──現場での判断・検査にどう使うか色差(ΔE)は、2つの色の間にどれだけ差があるかを数値で示す指標です。
CIE Lab表色系では、色をL*(明度)、a*(赤緑軸)、b*(黄青軸)の3次元で表し、
この空間上で2つの色の座標間の距離を計算することで、色の違いを定量的に評価します。
最も基本的な計算方法は、CIE76(ΔE*ab)で、以下の式により求められます:
ΔE*ab = √{ (L2 – L1)^2 + (a2 – a1)^2 + (b2 – b1)^2 }
この式はシンプルで計算が早く、多くの測定器やソフトでサポートされていますが、
視覚による感じ方と一致しない場合もあり、精密な管理が求められる場面では補正された式が使用されます。
色差(⊿E)の求め方:2つの色(L1,a1,b1)と(L2,a2,b2)の距離を計算
ΔEの値が示す色の違いの大きさは、以下のように理解されています(あくまで一般的な目安です):
・ΔEが0.0~0.5:人の目ではほとんど識別できないごくわずかな差
・ΔEが0.5~1.0:非常に微細な差。比較すればわかるが、多くの場合は許容範囲
・ΔEが1.0~2.0:近くで比較すれば違いが分かる程度。製品や業界によっては許容される
・ΔEが2.0~3.0:並べて見ると明確に違いが認識できるレベル
・ΔEが3.0以上:はっきりと異なる色として認識される。一般的には色ずれと見なされる
実際の許容基準は業界や製品によって異なり、
たとえば、印刷や化粧品業界ではΔE≦1.0が合格基準とされることが多く、
繊維業界(カーペット、ソファ生地など)や塗装分野ではΔE≦2.0~3.0が許容範囲とされることがあります。
人間の目は、色の種類や明るさによって、色差への感度が異なります。
この「視覚的な感覚のずれ」を補正するために登場したのが、CIE94とCIEDE2000(ΔE00)です。
・ CIE94(ΔE94)
明度(L*)、彩度(C*)、色相(H*)の各方向で人の感覚を考慮し、補正係数を導入しています。
計算式(簡略): ΔE94 = √{ (ΔL / kL・SL)^2 + (ΔC / kC・SC)^2 + (ΔH / kH・SH)^2 }
用途:印刷、プラスチック、繊維など、比較的精密な評価が求められる分野に適しています。
・ CIEDE2000(ΔE00)
視覚との一致性をさらに高めるため、CIE94に以下のような補正を追加したものです:
・色相回転補正(Hue rotation)
・彩度の非線形補正(Chroma scaling)
・明度・彩度・色相の相互作用補正
計算は複雑ですが、現在最も視覚に忠実な評価式とされ、化粧品、医療用材料、精密電子部品など、非常に高い精度が求められる場面で使用されています。
それぞれの色差指標には特徴があり、用途に応じて使い分けられます。
・ΔE*ab(CIE76):計算がシンプルで、初期導入や簡易な色差管理に向く
・ΔE94(CIE94):色の方向別の感度補正により、精度の高い評価が可能
・ΔE00(CIEDE2000):視覚との一致性が最も高く、国際規格でも推奨されている
JISやISOの最新規格でも、色差の基準値としてΔE00を採用するケースが増えており、今後の主流とされています。
ΔEは、製品検査や品質管理、顧客との基準共有など、現場での色の意思決定を支えるツールです。以下に代表的な活用例を挙げます。
・自動車部品の塗装検査
バンパーとドアパネルで色の差がΔE=1.5を超えると、見た目に違いが出るため、ΔE≦1.0を基準とした合否判定を行う。
・化粧品のロット間比較
リップカラーなどで、ロットごとの色ぶれをΔEで管理し、一貫性を保つ。
・家電製品の異素材色合わせ
プラスチックと金属などの異なる素材を用いた製品で、見た目の統一感を保つため、ΔEを用いて許容範囲内に調整する。
・顧客との色基準共有
支給されたサンプル色と製品のΔEを提示し、主観によらない合意形成を実現する。
パパラボの色彩計およびソフトウェアでは、CIE76、CIE94、CIEDE2000のいずれの計算方式にも対応しており、用途や要求精度に応じた柔軟な色差評価が可能です。
色差検査(例):基準と検査の⊿Eが求められる
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